第2章 家じまいにおける不動産実務の要点
家じまいにおいて、大きなウェイトを占めるのが不動産をどうするかについてです。
不動産の実務について要点をまとめました。
目次
1. 不動産の現状把握
家じまいの第一歩は「現状を正確に知ること」です。
(1)登記簿の確認
・所有者は誰か(単独か共有か)
・抵当権や根抵当権の有無
・地目・地積・建物構造の記載内容が現況と一致しているか
(2)測量の必要性
・古い土地は境界が不明瞭なケースが多い
・隣地との境界トラブルを防ぐため、確定測量図の有無を確認
(3)建物の状態
・築年数・構造・耐震性
・リフォーム歴の有無
・解体が必要な場合の費用見積もり
👉 ポイント:
相続人が複数いる場合、まず全員が「不動産の現状を共通認識」することが後のトラブル防止につながります。
2. 売却か賃貸か、活用の方向性を決める
不動産をどう扱うかは家じまいの核心です。
(1)売却
・まとまった資金が得られる
・維持管理の負担から解放される
・相続人間で分けやすい(現金化しやすい)
(2)賃貸
・収益を得られる
・ただし管理や修繕の手間が発生
・空室リスクや滞納リスクを考慮
(3)空き家管理サービスの利用
・売却までの期間や、相続人が判断を迷う期間の一時的手段
・定期巡回・換気・清掃を委託
👉 売却か賃貸かを判断する際は、
「不動産の市場価値 × 相続人のライフスタイル × 維持費の負担」
の3点を比較するのが実務的です。
3. 売却の実務フロー
家じまいで最も多いのが「売却」です。実務の流れを整理すると:
(1)不動産会社への査定依頼
・机上査定と訪問査定の違いを理解する
・複数社に依頼し相場観を掴む
(2) 媒介契約の選択
・専属専任媒介、専任媒介、一般媒介の違い
・売主の状況(早期売却か、高値売却か)に応じて選択
(3)販売活動と内見対応
・荷物の整理・ハウスクリーニングを行うと印象が大きく変わる
・相続登記未了だと契約できないため要注意
(4)契約と決済
・手付金授受
・契約不適合責任の範囲確認
・決済時には司法書士が立会い、所有権移転・抵当権抹消を行う
👉 実務上の注意点:
・「名義が故人のまま」だと売却できない(相続登記が必須)
・古家付き土地は「更地渡し」か「現況渡し」で価格が大きく変わる
・解体費用を売主・買主どちらが負担するかで交渉が生じる
4. 相続との接点
家じまいは多くの場合、相続と直結しています。
・相続登記義務化(2024年4月施行)により、相続を知ってから3年以内に登記が必要
・複数相続人がいる場合は「遺産分割協議」が前提
・協議がまとまらなければ売却も賃貸もできない
👉 実務上は、まず「遺産分割協議書」と「相続登記」を整備するのが優先です。
5. 高齢者ご本人が売却する場合の留意点
・認知機能に不安がある場合、契約行為が無効と判断される可能性がある
・成年後見制度や任意後見契約を準備しておくと安全
・民事信託(家族信託)を検討するのも選択肢として必要
・施設入居の資金に充てる場合は「売却の時期」と「入居時期」の調整が重要
6.不動産実務の視点
家じまいにおける不動産の扱いは、
・現状把握(登記・測量・建物)
・活用方針の決定(売却・賃貸・管理)
・売却実務の流れと注意点
・相続との接点整理
・高齢者本人の判断能力への配慮
この5つの柱で考えるのが実務的かつ安全です。
7. 残置物の撤去とリサイクル
(1)残置物が問題になる理由
家じまいでは「建物の売却・賃貸」以前に、家財道具や生活用品がそのまま残されているケースが多くあります。
・家具、電化製品、衣類、書籍、趣味の品
・仏壇や人形など処分に迷うもの
・倉庫や庭に残された農具や建材
👉 不動産取引の実務では
「引渡し時に残置物を撤去して更地(または空き家)にする」
ことが原則です。残置物が残っていると、売却も賃貸も進められません。
(2)撤去の方法
残置物の撤去にはいくつかの方法があります。
1. 遺族による整理
・写真や思い出の品は家族で仕分け
・「いるもの」「不要だが処分に迷うもの」「処分するもの」に分類
2. 不用品回収業者の利用
・家具・家電を一括処分できる
・費用は1軒まるごとで20万~100万円以上(規模による)
・無許可業者による不法投棄に注意
3. 遺品整理業者・残置物撤去専門業者の利用
・遺品整理士の資格を持つ業者もあり、供養や形見分けの手配まで対応
・残置物とリサイクル品の分別を徹底してくれる業者も多い
4. リサイクル・リユースの活用
・家電リサイクル法に基づく処理(テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機)
・リユースショップや海外輸出ルートで買い取りされる場合もある
・地域の自治体の粗大ゴミ回収と併用
👉 実務上は、
「遺族で仕分け → 専門業者に撤去依頼 → リサイクル可能品は売却・寄付」
の流れが現実的です。
(3)心理的・哲学的な側面
残置物は単なるモノではなく、故人や家族の記憶と結びついているため、処分に感情的な抵抗を伴います。
・「仏壇をどうするか」
・「思い出のアルバムを誰が保管するか」
・「子ども世代に必要ないが、処分するのは忍びない」
👉 ここで重要なのは、
処分を「別れ」ではなく「未来への整理」と捉える視点です。
リサイクルや寄付に回すことで、「もの」が新しい場所で活かされることも家じまいの一部と考えることができます。
(4)不動産実務との関係
・売却契約書には「残置物は売主の責任で撤去し、引渡し時に空き家とする」と明記されるのが一般的
・残置物撤去費用を「売却代金から控除する」取り決めをすることも可能
・相続人間で費用負担をどう分けるかを早めに話し合うことが肝要
(5)まとめ
残置物の撤去は、
・物理的な作業(整理・処分・リサイクル)
・心理的な作業(記憶との折り合い、気持ちの区切り)
の両面を含む、家じまいの核心的なプロセスです。
実務上は、信頼できる遺品整理業者や残置物回収業者の選定がカギとなり、同時に「思い出をどう残すか・次世代に何を託すか」という哲学的な問いに向き合う機会でもあります。
8. 家じまい後の生活設計
家じまいの目的は「家を片づけること」自体ではありません。
本当の目的は、整理の先にある新しい暮らしをどう描くかにあります。
(1)高齢者施設への入所
資金計画との直結
・売却代金を入所一時金や月額利用料に充てるケースが多い
・賃貸に出して得た家賃収入を「施設費の補助」として使う方法もある
施設選びのポイント
・医療対応の有無(認知症や持病に対応できるか)
・立地(子どもが通いやすい距離か)
・入所一時金と月額費用のバランス
👉 不動産売却のタイミングを施設入所と合わせると、資金の流れがスムーズになります。
(2)親族との同居
二世帯住宅化やリフォーム
・売却資金をリフォームに充当し、親世代と子世代が快適に暮らせる住環境を整える
心理的な課題
・世代間の生活リズムや価値観の違いがストレス要因になる
・事前に「生活ルール」を取り決めておくことが重要
不動産実務の工夫
・同居開始前に相続や名義の整理を進めておくと、将来のトラブルを予防できる
(3)コンパクトな暮らしへの転換
小規模な賃貸やマンションへの住み替え
・「庭の手入れが大変」「階段の昇り降りが辛い」といった課題を解消
・エレベーター付き・駅近の物件は高齢期の生活に適している
持ち家から賃貸への転換
・固定資産税や修繕負担から解放される
・将来の身の振り方を柔軟に変えられる
(4)生活資金と相続の視点
・売却代金を「老後資金」としてどう運用するかを早めに検討
・年金や退職金と合わせて、ライフプランシミュレーションを行う
・相続予定の子世代に資金を一部贈与することで、教育資金や住宅取得資金に役立てられる
・その際は贈与税や相続時精算課税制度を活用
(5)心理的な意味合い
家じまいを経て新しい生活を始めることは、「喪失」ではなく「再出発」です。
・庭の桜の木を手放しても、新しい環境で別の四季を感じられる
・思い出の家を離れても、「軽やかな生活」や「家族との距離の近さ」が新しい喜びになる
・「住まいの整理」から「生き方の整理」へと視点を広げると、家じまいは未来への贈り物に変わります
(6)まとめ
・家じまいは終わりではなく始まり。
・売却資金を施設入所・同居・住み替えに活用することは、実務的にも人生設計的にも大切な選択肢。
・新しい暮らしを前向きに捉えることで、家じまいは「人生の最終章の準備」ではなく「次の章への入り口」となります。
