家じまいの哲学 家じまい実務ガイド 第3章 家じまいにおける相続実務の要点

第3章 家じまいにおける相続実務の要点

~家じまいの延長線上にある資産の行方~

家じまい実務ガイド第3章家じまいにおける相続実務の要点


1. 相続は「家じまい」の延長線上にある

家じまいの目的は、単に物理的に家を整理することではなく、「次の世代に負担を残さない」ことにあります。
しかし実際には、家を片付け終えたあとに相続の問題が表面化するケースが少なくありません。

たとえば次のようなケースです。

・親の名義のままになっていた土地を売ろうとしたら、相続登記が未了で取引できない
・相続人の一人が遠方に住んでいて、遺産分割協議が進まない
・借金や維持費の負担を避けるため、相続放棄を検討する
・不動産の評価額が想定より高く、相続税の納付資金が足りない

こうしたトラブルを防ぐためにも、
**「家じまい」=「相続準備」**という視点が欠かせません。


2. 相続登記義務化への対応

2024年4月から、不動産の相続登記が義務化されました。
相続によって不動産を取得した場合、3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料が科される可能性があります。

(1)実務対応のポイント

・被相続人の名義のまま放置している土地や建物がないか確認
・名義変更には「遺産分割協議書」「戸籍謄本」「印鑑証明書」などが必要
・相続人全員が署名・押印した「遺産分割協議書」が整っていないと登記できない
・登記の際には司法書士への依頼がスムーズ(報酬相場:5万〜10万円程度/件)

(2)補足

相続登記を放置してしまうと、その不動産が共有状態となり、将来的に売却や管理が極めて困難になります。
この点を「家じまいの早い段階で確認する」ことが重要です。


3. 遺産分割の実務

家や土地などの不動産は「分けにくい資産」です。
そのため、相続人間でトラブルになるのはたいてい不動産の扱い方です。

(1)主な分割方法と留意点

分割方法 内容 注意点
現物分割 不動産をそのまま分ける(例:土地を分筆) 評価差や利用価値の不均衡が生じやすい
代償分割 一人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う 資金調達力が必要(住宅ローンを組むケースも)
共有分割 相続人全員で共有名義にする 将来の売却・管理で揉めやすい
換価分割 売却して現金を分ける 売却価格や時期の調整に時間がかかる

(2)実務アドバイス

「家を売ってから分ける」か「分けてから売る」かで手続きの順序も変わるため、
不動産会社と司法書士・税理士の連携が欠かせません。


4. 相続放棄・限定承認の判断

近年、空き家や借金のある不動産を相続したくないという相談も増えています。

(1)相続放棄

・家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出(相続開始から3ヶ月以内)
・放棄すれば、最初から相続人でなかったことになる
・放棄しても他の相続人に負担が移る場合があるため、親族間での連携が重要

(2)限定承認

・相続財産の範囲内でのみ借金を返済する制度
・相続人全員の同意が必要
・不動産を売却して清算する際には税務・登記の知識が必要


5. 相続税・贈与税の基礎と対策

家を売る・残すどちらの選択にも、税金の影響は避けて通れません。

(1)相続税の基礎控除

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
これを超える遺産がある場合に課税対象となります。

(2)よくある実務上の誤解

・路線価で計算すると評価額が下がる可能性がある(市況価格より低い)
・居住用宅地は「小規模宅地等の特例」で最大80%減額可能
・相続税の申告期限は10ヶ月以内

(3)贈与による生前対策

・年間110万円までの贈与は非課税(暦年贈与)
・「相続時精算課税制度」を利用すれば、2,500万円まで非課税枠あり
・ただし、相続税計算時に再度合算されるため注意が必要


6. 実務に役立つチェックリスト

(1)相続に関する確認項目

項目 内容 対応者
相続人の確定 戸籍・除籍・改製原戸籍の収集 行政書士・司法書士
相続財産の洗い出し 不動産・預金・保険・負債など 税理士
評価証明書の取得 市区町村役場で取得 不動産業者・司法書士
登記手続き 名義変更の申請 司法書士
遺産分割協議書作成 全相続人の合意形成 弁護士・行政書士
相続税申告 10ヶ月以内に提出 税理士
不動産売却の可否 共有・登記未了の確認 不動産会社

7. 相続を「争族」にしないために

遺言書がないまま亡くなると、法定相続分に従って分割されます。
しかし、実際の現場では「平等=公平」ではありません。

誰が介護を担ってきたか、誰が家に住み続けるか――
こうした生活実態を踏まえた納得感ある分割が必要です。

(1)実務的アドバイス

・家じまいの段階で「遺言書の作成」を促す
・公正証書遺言(公証役場で作成)がトラブル防止に有効
・相続人が多い場合は、事前に専門家チーム(司法書士・税理士・不動産会社)を組成する


8. 「税務とお金の整理」

不動産・相続を経て、最終的に整理すべきは「お金」です。
家を売ったお金、相続税の支払い、介護や施設入居資金など、資産をどう“次の生活”へつなぐかが家じまいの核心です。


※最新の税法については税理士などにご確認ください。

次章「税務・資金管理の実務」では、

・売却時の譲渡所得税の計算例
・特例(3,000万円控除・買換特例など)
・介護資金・施設入居費の試算
・相続後の資産運用(信託・リバースモーゲージ等)

といったテーマを中心に要点をまとめます。